緑道の暗渠に流れゆく水に息をあわせて あわせて ねむる

鯨井可菜子『アップライト』六花書林,2022.09

 

この歌の登場人物は、眠りに入ろうとしているひと、そのひとりのはずなのに、なぜか幾人もの声が聞こえてくるような、不思議な空気感を纏った作品です。

 

「緑道」とは、辞書に「都市公園の一種。市街地を中心に設けられる歩行路、あるいは自転車路」とある通り、都会に存在の認められるもの。

そして、都会のなかで数少ない、自然に近い形での「暗渠」を携えている場所かもしれません。

 

この上の句は二通りの意味が取れるように作られているようで、

一つ目は「緑道の暗渠」へ「流れゆく水」に「息」を合わせるという読み。

もうひとつは、「緑道の暗渠」&「流れゆく水」のそれぞれに、という読み。

 

そして下の句は、そのどちらの場合も響き合うように仕立て上げられています。

一つ目の「あわせて」は作中の主体、そして二つ目の「あわせて」は語り手が、

或いは夜の「緑道」を歩む誰かと、その誰かの息吹を想像しながら眠る誰かが、

あらゆる静かな、夜の闇に溶け込むものたちに呼吸を合わせようとしている。

 

「息をあわせて あわせて ねむる」の、この「あわせて あわせて」は決して単純なリフレインではなく、ここで不思議と声色の変化していることに気がつきます。

これがきっと冒頭の「登場人物はひとりのはずなのに、なぜか幾人もの声が聞こえてくるような」気配に繋がっているのでしょう。

 

じょうずに眠れぬひとびとの魂を集めて、まるでみんなをねむりに誘うような優しさと、うつつの世界に対するほんの少しの疲労の見える、とてもとても好きな一首です。

 

 

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