立花開『ひかりを渡る舟』KADOKAWA,2021.09
葉の落ちるささやかな音が、耳に心地よく残るような、うつくしい一首。
「ひかる葉を…」という、幻想的な語り出し。
そのひかるものを「あなたに向けた」…のかと思いきや、それは「ささやき」へと接続される。
さらにそれは下の句のはじめの「として」へと接続されて、
「ひかる葉」が「ささやきとして」、「あなた」に向けられている、ということを、わたしたちは順番に把握します。
かみしもの間に句跨りを用いることで、この把握の時差、気づきの喜びが生まれるのです。
そうして、「ひかる葉をあなたに向けた」という幻想的な光景から、この「ささやきとして」によって、うたの景色はひといきに変わり、
「落葉は秋に降る声」と、作中の主体が実際に目にしているであろう光景を差し出すのです。
煌めきは二つ。まず、「落葉」を「ひかる葉」と、はじめに語り手の言い換えをしているところ。
種明かしをしながらも、その光景を幻想的なものとしてうつくしく生み直しています。
もう一点は「ささやきとして」の句跨りによって、発語が急ぎ足に進むようなところ。
ほんものの「落葉」のかさかさとした囁きのように、耳当たりの良く言葉がわたしたちの耳にも響いてくるでしょう。