大松 達知


「この国」と言ふときふつとさみしくて何かまとまらず春の宵

大口玲子『東北』(2002)

 

 日本語教師としての日常から日本と外国を描いてデビューした大口玲子。

 その後、心の病による入院体験や、原子力と核の問題などの印象に残る大作を発表している。

 

 「この国」という言葉は、とても狭い。

 日本にいれば日本だけを指すし、中国にいれば中国だけを指す。当然のことであるけれど、もっと大きく世の中を考えねばならない時代に(いや、時代は関係ないかもしれないけれど)内向きなセリフである。

 そう発してしまうと、自分までもがせせこましい枠の中に嵌め込まれてしまうような感覚があるのだろう。

 それに、やや否定的で排他的な文脈を導きだしがちな言葉でもある。試しに、「この国」と口で出してみるといい。

 

 そのあたりのあれこれを直感的に察して、ふっとさみしくて何かまとまらない気持ちになるのだ。

 それが春の宵に絞られているのも、桜鑑賞を中心としたナショナリスティックな雰囲気を想起させて、良い。(一連のタイトルは「さくらさくら」。)

 

 結句は字足らず。「何かまとまら/ず春の宵」と読んでも「何かまとまらず/春の宵」と詠んでもいい。(筆者は厳密な定型を尊重して、前者をとりたい。)

 歌の意味内容を体現する、巧みな字足らずである。