如意棒にほつほつほつとおひさまが置かれ列島けふ菊日和

『秋袷』青木昭子

 意味はよくわからないものの、言葉の面白さによって記憶している歌である。「如意棒」とはご存知『西遊記』の孫悟空の持ち物で、自在に伸縮させて扱うことのできる架空の棒である。この如意棒が出てきただけでも心が弾むが、それに「ほつほつほつとおひさまが置かれ」とあることで、いよいよ物語性が濃くなる。「ほつほつほつ」とあるのも「ほつ」なのか「ほっ」なのかわからず、「おひさまが置かれ」という状態もはっきりしないのだが、それもこれも「如意棒」の世界と見ればなお楽しい。そうして「おひさま」は動いて、「列島けふ菊日和」と言葉は着地する。まるで「如意棒」の力で列島に気分のよい秋が来たようではないか。折から今日は重陽、菊の節句の日である。秋の歌では「紫蘇の花ひつそり咲いて秋まひる淋しくて死んだ人はあらずも」という歌もあるが、ここでは秋のこの世の淋しさをからりとした空気として伝えている。二〇一三年刊行。

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