『南無 晩ごはん』池田はるみ
二歳の子が大きな桃を両手に抱えてかぶりついている情景がありありと見えてくる。子はさも「まんぞく」というように、時々「おお、おお」と声を発しながら集中して食べている。二歳となってはじめて桃ひとつを手に持って食べているのかもしれない。「おお、おお」、「大桃」にあるO音の重なりも豊かで、人間にかぎらず、生き物が物を食べるという至福感を、あらためて思い起こさせる歌だ。そして、桃にかぶりついている子の姿を見下ろしているものは、「月」である。おそらく煌煌と光る秋の満月だろう、「月がのぼりぬ」と動きを感じさせるところも、何か昔話のような時間の懐を感じさせて楽しい。この歌集にはタイトル通り〈食〉がたくさん歌われているが、「ゆふぐれの箸もつわれに聞こえくる『たれか居る?たれも知らないこの世』」というように、それは〈食〉と「この世」の物語でもあるようだ。二〇一〇年刊行。