『時のめぐりに』小池光
作家川端康成の眼光の鋭さを記憶している人は多い。なにか鷲か鷹など鳥類の目を思わせるところがある。風貌の中でもひときわ忘れがたいその眼を、「うすきみわろき目」と小池はいう。大づかみなこの言葉は、しかしさまざまなことを想像させるようだ。何処を、何を見ているのか、遠くのものか、見えないものをか、光か闇かなどというように。そしてその全てを含んでなお不明確な「うすきみわろき」なのだろう。さらにその目は、下句の「落ち葉の天に舞ひあがるとき」という場面と結びつけられて、垂直な動きが加えられている。落ちることと舞い上がることとが同時に起こる動きである。それは突如起こった竜巻の渦なのか、あるいは川端の見るという行為の在りようなのか、などと曖昧な連想を浮かばせながら、しかし小池は、ただ淡々と、川端の「うすきみわろき目」をなまなましく読者の中に残すのである。二〇〇四年刊行の第七歌集。