風に咲く石蕗つはぶき見ればわがうちにひよこのやうな黄の色ともる

 『水仙の章』栗木京子

 初冬の陽に石蕗の花が咲いている。「風に咲く」とあるので、花茎が冬の風に揺れていたのだろう。それを見ているうちに、「わがうちにひよこのやうな黄の色ともる」と歌われている。「見れば」とあるので、石蕗の花との関係性は強く、作者はこのとき心が沈んでいたのかもしれない。それが石蕗の花によって黄色に灯ったというのである。眼前の景色から心が現れるという形の歌であるが、なんといっても「ひよこのやうな」という比喩に魅力がある。明るく、温かく、ふわふわとしていて、優しいというように、色ばかりでなく、温度や触感など多くのものを感じとらせ、まさしく心に「ひよこ」が灯ってくるのである。歌集の「あとがき」には、大震災の被災地に咲いていた水仙を「小さなともしび」のように見たことが記されているが、この歌の「石蕗」の景色にも同じ思いが寄せられているだろう。二〇一三年刊行。

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