『夕暮』福島泰樹
冬という季節は陰暦では立冬から立春までの三か月、一年のもっとも寒い時期である。冬=ふゆという言葉にはいろいろな意味があるようだが、その一つに「殖ゆ」というのがあり、自然界のものが春にそなえて力を蓄え、殖やす季節と考えられたらしい。この歌の「万物は冬に雪崩れてゆくがいい」という叫びは、万物よ、一度は滅びに向かって突き進むがいいという「冬」の力に対する心の迸りだろう。自然界も季節の運行も自身の内に呼び込み、渦のように声を発する、その大らかな言葉の活力は福島泰樹ならではのものだ。
かつて、福島泰樹の絶叫コンサートを聴きにいったことがある。ピアノの演奏とともに熱唱される歌は、肉声によって形を得たように立ち上がり、とくに中原中也の挽歌は美しかった。亡きものへ寄り添う心は、この歌にも「追憶のみにいまはいるのだ」と歌われている。福島の歌は、死者のみならず、この世を生きる「万物」に向かって、名を呼び、触れ、鎮魂する。歌という形式がもつ力を信じて、放つのである。一九八一年刊行。