ふる雪に光りふるひゐるまんじゆしやげそれはあそびに遠きひとむら

『珊瑚数珠』森岡貞香

 『珊瑚数珠』の巻頭に置かれた一首である。「雪」と「光り」と「遠き」の他はひらかなで書かれたこの一首は、歌をつくりはじめた頃のわたしの目にひどく鮮烈に映ったことを覚えている。曼殊沙華は周知のように、秋の彼岸頃に赤い美しい花を咲かせ、その花が萎れた後に濃緑の細長い葉を繁らせる。ゆえに冬の「まんじゆしやげ」とは葉叢のことである。その葉叢が「ふる雪に光りふるひゐる」という。雪を受けて葉叢が光りつつふるえている情景だろう。それを見つつ「あそびに遠きひとむら」と思っているのである。難しいのは「あそびに遠き」の意味だが、降ってくる雪を受けては光りを返す葉叢の、一心の、ひたすらの姿、ということは一応できるだろう。しかしおそらくそれでは足りない。次の歌に「雪かむり尤もうつくしきものに言ふこの庭に見えかくれするのは誰」とあるように、作者の目は情景の中に潜む何か見えないものの気配をとらえているのである。何かとは過去の時間か、死者か、あるいは宿命だろうか。ともあれ、風景というものに不可視の影が潜んでいることを、はっきりと認識させられた歌であった。一九七七年刊行。

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