『太陽の壺』川野里子
独り暮らしの母を娘は気にかけている。母は気丈に独りで正月用の「餅」をついているという。餅つきといえば、昔は家族ぐるみの一大イベントであった。だが、この半世紀、家族の形態も大きく変わったが、餅つきの方法もまた変わった。いまや餅はスーパーマーケットでいつでも買えるものとなり、また家庭用の餅つき機などもあるので、「独り家」の「母」も「独り餅」をつく楽しみはできるのである。といっても淋しさはぬぐいがたく、離れ住む娘は遠くから「わつしよいわつしよい」と掛け声をかけているのだろう。いまの時代の家族の形と、暮らしの中の行事の在り方を見据えた「わつしよいわつしよい」の明るさと、もの哀しさ。作者はそれをまた、「この世が白し」と別の言葉であらわしているが、この「白し」という多義性のある表現がみごとにはまっているようだ。自由なのか不自由なのか、便利なのか不便なのか、そんな現代という時代を「白」という色で見せているのである。二〇〇二年刊行。