『uta 0001.txt』中澤系
2025年現在からみて懐かしい、時代だったから、といった感想はほとんど拒絶されるいっぽうの歌集で衝撃を受けた。新しいという感想も違って、ただ、ミーム化する以前の90年代、世紀末の原液をひたすら味わっているような心地がする。初版からは20年たつが、世界がこの歌集から未来へ遠ざかっていくにつれて、こうした印象がより強くなっていくのではないか。
遺産配当に恃み生きるも愉しけれされどわが征く曠野如かず
出口なし それに気づける才能と気づかずにいる才能をくれ
CLICKでジャストシステム1000株ね Ok, it’s the stylish century
reproductive healthと言うか地下鉄で眠る彼らのあいた唇
国民はある夜生まれるかもしれぬ選挙速報ばかりを見つつ
「レガシー」「reproductive health」など。これらの歌に含まれる単語は、かなり早期の用法の例として注目できるのではないか。「才能」はもとはきわめて少数の天才のために授けられたものではないのかと私は疑っているのだが、こうして一般の市中に流通し始めたのもこのころなのではないか。調べてみるとネット証券の始まりはアメリカで1995年ごろ、日本で96年~99年という説が定着しているようで、最初期の原風景がこのように堂々とした、むき出しの、結果発表のようなたたずまいでいきなり書かれたことに驚く。2000年問題という背景があったことも付記しておきたい。
意図なんかしたくはないさひるひなかフレンチフライのMくらいしか
天金の辞書踏み台に夏服を探す理由はない意図はない
「理由」「意図」への深い執着がある。理由や意図からまったく離れた生を想像することが難しい。コンテンツやメディアに対してそれが必要な理由を探しながら、同時に理由もなく触れ続けている。どこまでも触れ続けることができる。フレンチフライは四六時中店頭で揚がり続け、意図に沿って選ばれたサイズの通りに箱詰めされることを繰り返している。歴史の象徴である「天金の辞書」はかろやかに少女の足で踏みつけられ、持ち主から解き放たれたアクセサリーのよう。掲出歌の「インク」もまた、時代をさかのぼる事物である。ただ「まっしろな紙」は「天金」よりはいくらか時代を下るであろう。思いがけず長い視線の上に地下鉄があり、選挙速報があり、辞書がありインクがある。そのなかのほんの一地点で、しかしその地点を簡単には遠ざかることができないまま、「理由」や「意図」にからめとられ続けている。「to mean, it’s mean」とは、「意味すること、それが意味」といった訳になるのかと思ったがDeepL翻訳で調べてみると全然違った。「meaning」ならともかく、名詞の「mean」は単複同形「means」の「手段」「方法」のほか、「意地悪」という意味があるそうだ。
つまり、それは意地悪だ。
これがDeepL翻訳の出した答え。どこまでも意味を読まずにいられない。総じていったんはこれまでの時代を統べた21世紀初頭の風景があり、そして、20年たっていまだ同じ概念の中をさまよっているだけなのではないか、とさえ感じていまの私はうろたえる。20年後の感想はどうなるのか、20年後のあなたに聞くだろう。
