岡井隆『E/T』(2001年)
下の句「無数の鳥のこゑの墓原」に凄みとさびしさがある。
「無数」ということはおそらく姿はみえない、あるいは多すぎて目が眩むという感じか。ただ、囀りだけが降ってくる。聴覚だけにうったえてくる空間は、どんなにかさびしいものだろう。
まなざしは、ひたすらとらえどころのない妻と自分の先行きへとむかう。
たとえば、『嵐が丘』の復讐の土地をおもわせる。その先にあるのは死である。
「妻との黄昏」にも、残された時間への寂寞たるおもいがにじむ。
老いの時間のなかで、ふかい愛を得ることは幸せなことだとおもう。
うたがうことのない愛は、希望を抱かせ、また厳しくそれまでの自分を弾劾もする。
わたしはあなたに 生きる時間をあたえる
そしてまた 生きてきた時間を
あなたはわたしに 子供のように あなたと
いっしょにいる時間を あたえる
ポール・エリュアール「書くこと描くこと刻むこと」より
「死がすこし怖い」という実直な呟き。
死を体感として畏れる、そのリアルさが、三句目以降のえたいの知れない魔物のような「墓原」に人間のなまぬるい息吹を吹き込む。