江戸 雪


乾いてる春をかわして行く君はさよならのときも振り返らない

中島裕介『Starving Stargazer』(2008年)

何度も読んでいると、か行音の連なりと四句目の八音「さよならのときも」が絡みあって、胸にふわっと落ちてくる。

「さよならのとき」は具体的には示されていない。けれどやはり、ほかの季節よりも春の別れのさびしさは格別だ。外界では風があたたかくなり、木々が芽吹き、花が咲く。華やかであればあるほど、内面の翳はふかまる。

「乾いてる春」に、空虚な交わりとふたりの冷静さをおもう。
どんな言葉を投げあっても離れていく気持ちはもうどうにもならない。おたがいその現実を受けとめるしかない。
いつのまにかそれぞれ違う世界を求めるふたりの姿はさびしいけれど、強く静かだ。花咲く春をふりほどくように行ってしまうときも、君は泣いたりせずにずっと強いまま。

「振り返らない」君を、やはり好きだとおもったのではないか。
春を避けるようにきっぱりと去っていくひとだからこそ、一緒にいたいとおもったときがあった。
だから、振り返らずに去っていく姿に、好きだったときのままの君が見えてほっとしたのだ。

過去を肯定しながら別れることができるなんて。いいなぁ。