「ぜんぶ好き」以外出口のない問いに「おっぱいです」で勝負して散れ

佐々木あらら『モテる体位』

「わたしのどこが好き?」という恋人からの問いは、なかなかトラップ性が高い。一般的には「ぜんぶ好き!!」が模範解答とされるが、「そんなの答えになってない。もっと具体的に言って」と切り返されたりもする。さりとて、「性格だよ、優しいとこだよ」と返すと、「顔は嫌いなの!?」と反応され、逆に「顔だよ、奇麗な目だよ」などと返すと、「私の内面は見てくれないの!?」ということになりかねない。かように愛恋の駆け引きはむずかしい。

しかしここで、佐々木あららは一つの答えを打ち上げる。「おっぱいです」と。

当然、「体だけが目的なの!? 最低!!」という反応が起こる可能性は非常に高い。あまりにも危険だ。だが、佐々木はそこで、世の男性たちに訴えかける。自らの欲望を直視し、それを正直に表明せよ。「ぜんぶ好き」と答えて済ませるという簡単な出口に逃げ込むのではなく、「おっぱいです」と直答するという断崖絶壁に当ってくだけて散れ、と言う。そう言われてしまうと、男女の関係がまるで、その部位一点に収斂してしまうような、不思議な感覚に襲われる。

「愛」って、本当はなんなんだろう。それをじっくり、自らに問いかけたくなる。この歌が「散れ」と命令している相手は、世の男性たちすべてであると同時に、愛をなあなあに受け止めがちになる作者の内側の心でもあるのだろう。

己への誠実さが、ややコミカルなタッチをはらんだ定型詩として生まれ変わったのが、この一首だ。心をグサっと刺される読者は、この時代に大勢いるだろう。歌集『モテる体位』は電子書籍として発表された。第一歌集を電書で発表することは、おそらく前例に乏しい。確実に「短歌」の何かが変わりつつある。枡野浩一の影響を受けたこの直裁的な文体もきっと、時代の何かを掴み取るのだと思う。

こうして「短歌」は常に、それぞれの時代を生きる人間同士の「つながり」を呼ぶ。