黒瀬 珂瀾


歪形(わいけい)歯車の かんまんなきざみの意志たちの冷静なかみあいの、──この地球のこのおもいおもい午後

加藤克巳『球体』

全部で49音。短歌かと言われれば、作者が短歌として発表した以上、短歌だと受け止めるべきだろう。9音、14音、10音、8音、8音と分けるのが最も「短歌らしい」かもしれないが、この歌にはさらに細かい韻律がある。

歪形/歯車の /かんまんな/きざみの/意志たちの/冷静な/かみあいの、/──この地球の/このおもい/おもい午後

こうして見るとこの歌は、5音の連鎖を基本とすることが分かる。冒頭に4音・5音、次に合わせ鏡のように5音・4音が続き、されに5音が3回繰り返され、まるで呪文のように読者を軽い酩酊に誘う。そして「──」により一旦留められ、少し余韻をためた状態で、最後の「おもい/おもい午後」までが文字通り重々しく提示される。この大破調からは、文字の意味の他に、リズムをも意味内容の一部として読みとって欲しいという思いが感じられる。

一方、文字内容を追えば、これは人類文明の比喩ではないか。歪んだ歯車が疲れ切った緩慢なリズムで刻み合う。歪んだ歯車がまともに連動するわけはないのに、回転を刻もうとする強固な意志は、歯を一つ一つかみ合うように冷徹に押しつけている。そうやってすべての時間が進んでゆく、この地球の重苦しい午後よ。

この「おもい午後」に象徴される、人類文明への不信。それをリズムの面で強調し、より一層の疲弊感を歌いっぱいにみなぎらせている。そして、この歌の長さ自体が、人類への呪詛となっているように思う。

 ボタンは一瞬いっさいの消滅へ、ボタンは人類の見事な無へ、─ああ丸いちっちゃなポツ

 あかときの雪の中にて 石 割 れ た

抽象の画家・瑛九が装丁を手がけた歌集『球体』には、短歌の限界に挑む様々な作品が収められている。長い歌も印象的だが、僕は後者の歌を、雪を見るたびに思い出す。

編集部より:同じ著者による歌集『樹液』はこちら ↓
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