仕事終へ白布かければ計器類にはかに支配者のかたちをくづす

鈴木諄三『ぜふぃいるす』

 

日々、計器類を操る人の歌。圧力計、温度計、速度計、濃度計…。職場には数々の計器が並び、その谷間で仕事をしているのだろう。退勤時、すべての計器を止め、上から白布をかける。それはまるで、計器たちを静かな眠りに着かせる、厳粛な就眠儀式のようだ。

 

眠りに着いた計器は、にわかに「支配者」の形を崩す。昼間は様々に唸り、針を示し、音を立て、作者らを追いたて、その行動を支配していた。しかし今は、音もたてない金属の塊として、白布をかけられる。そして作者は静かに扉を閉め、眠る計器にしばしの別れを告げる。

 

作者は研究に従事していたと聞く。さもあれば、計器はまことに大切。仕事のパートナー、仲間というよりも最早、上司のごとき存在なのだ。この一首にはまさに、退勤する寸前の仕事場の静寂が満ちている。しかしその裏には、昼間に稼働する計器たちの騒がしさ、尊大さが透けて見える。金属製の計器が「かたちをくづす」というイメージはどこか、ダリか誰かのシュールレアリズム絵画を想起させる。作者にとっては計器も生きているのだ。

 

  暗室に狎れし幾時間戸をあけて罵声のごとき陽を浴びせらる

 

この歌も、「罵声のごとき」が、その職場にいる者ならではの実感を伝える。もう一首、これは職業病かもしれない。こういう理系男性と付きあってる女性に、感想を聞いてみたいのだけど。

 

  粧ひて汝(な)がくる逢ひかメスあてし家兎(かと)の素肌のうすきももいろ

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