黒瀬 珂瀾


籠に飼ふネズミは産みしばかりなるその仔を静かに食みをはりたり

大沢優子『漂ふ椅子』

 

ハムスターかモルモットか、小さなげっ歯類をペットに飼っている。おそらくはつがいで飼っていたため、メスが子供を産んだ。するとそのメスは産んだばかりの子供を食べ始めた。

 

ネズミなどは、ストレスが極度に高まると子食いを行うという。それを作者はじっと見つめる。「産みしばかり」とあり、「食みをはりたり」とあるから、ネズミが子を産んでから、それを食べ終わるまで、息を殺して見届けたということになる。「静かに」の一言が、この子食いを何かの供儀のように思わせる。実に残酷で、荘厳な静けさに満ちた、小さな小さな出来事である。

 

一匹の子ネズミが食いつくされるまでを、じっと見つめていた作者の心とは、どういうものだろう。見てはならないと解っていながら、見続けねばならないと感じる。小さな禁忌に強烈に惹き付けられる心が、物語の最後を語り終えるような下句に表れている。不思議な丸みが感じられる下句の響きは、小さな禁忌の語り部とならずにいられない作者の心を反映している。その背後には人間の、そして自分自身の親子関係への思いも隠れているだろう。

 
  食へないと釈明かさね食品に脱酸素剤つき添ひてゐる

 

こちらは食べられない歌。脱酸素剤を口にすることも、小さな小さな禁忌。思えば私たちの生活は、小さな禁忌に取り巻かれている。