澤村 斉美


だらだらとのぼれば坂は美しい「武道館」とふ筆蹟(て)が見えてきて

梶原さい子『あふむけ』(2009年)

 

きつい坂ではないのだろう。勾配がゆるく、長く続く坂を、まるでその坂の性格に合わせるかのようにゆるく、「だらだらと」歩いてゆく。一人でもいいし、誰かと連れ立っていてもいい。歌集では「岩高坂」という一連にあり、坂の上にある岩出山高校へ行く道すがらということである。作者は教師である。

 

「のぼれば」の「ば」がいいと思う。「のぼると」ぐらいの意味の単純な接続だ。のぼってみて「美しい」というのだから、坂自体を見て言っているのではなく、坂をのぼりながら見た景色や、吸った空気や、歩いていく体感なども含めた「美しい」なのだ。

 

やがて坂の上に、高校の建物の一つだろう、「武道館」と書かれた額か表札かが見えてくる。「筆蹟」からは、筆文字の印象がくっきりと立ち上がる。坂の終着がくっきりと見えている。そこまで含めて、坂の美しいことが伝わってくる。