江戸 雪


ジュリアナ様と阿佐緒を称え綺の側に付きし石原純の不惑や

藤原龍一郎『花束で殴る』(2002年)

原阿佐緒は宮城県黒川郡宮床村うまれの女流歌人。とても美しい女性だったと聞く。
彼女を「ジュリアナ様」と呼びかけ、愛を求め続けた石原純。
そのころ彼は、優秀な物理学者として期待され、妻子とともに堅実な生活を送っていたとされる。
そのイメージとはかけはなれた「ジュリアナ様」という発言に、すこし驚く。
しかしその驚きののち、淡い同情の念が湧きだしてくる。

石原純は、自らの持つ愛情すべてを、かくすことなく阿佐緒にぶつけた。
なかなかできることではない。
阿佐緒という女性に逢ったことによって、誰もが夢見る「愛の物語」を強引なまでに体現しようとする。その情熱は、一途に勉学に励んできた彼だったからこそ持てたものだ。

「綺の側に付きし」という表現に、石原純への、いや、彼の愛の行為への憧れが表れている。
「綺」とは、ほんとうに美しい、という意味だろう。
「不惑」。40歳。
この齢と「不惑」の意味を考えるとき、世間が驚愕した石原純と原阿佐緒の恋も、ふたりにとっては、迷いのないごく自然なものだったのかもしれない。