澤村 斉美


暗やみのかたちに合はせ何度でも鋳直すことのできるこの指

石川美南『離れ島』(2011年)

『裏島』と同時に刊行された『離れ島』から1首を。ちなみに、『裏島』は物語にのせて歌を構成する連作から成り、『離れ島』はどちらかというと1首1首を読ませる歌集だ。趣向の異なる双子のような2冊、併せて読むとなおたのしい。掲出歌は、「鋳直す」が読みどころだ。「暗やみ」が鋳型で、指はその型で鋳られてぽこっと生まれたかのようだ。普通「型」は固いものなのだが、「暗やみ」という触れないものを「型」に見立てているところが面白い。「暗やみ」の黒と、指の白くなめらかな質感を捉えた油絵を見ているような気持ちにさせられた1首。

生真面目に夕空を切り取りながらひねくれたくてたまらない窓

嚙めば月のまばたきに似た音のするアルミニウムの硬貨を愛す

同じ歌集から引いた。1首目は、窓があり、そこには窓の形のとおりに夕空がある。「生真面目」という言葉がいかにも窓らしくて、とはっとさせられるが、下句で「ひねくれたくてたまらない窓」と想像が加わり、ちょっとくすっとさせられる。なんでもない窓に、微笑を誘うユーモアを加わっている。2首目の「アルミニウムの硬貨」は1円玉か。軽くて固いそれを嚙んだらするという「月のまばたきに似た音」。どんな音だろう。「月のまばたき」を知らないし、1円玉を嚙んだこともないけど「そんな音がしそう!」と思わせられるたのしさがある。微笑と少しの皮肉を含んだ視線で、身辺のなんでもないものに物語を加える。そこに作者独特の物語の技がありそうだ。