江戸 雪


みづからの恋のきゆるをあやしまぬ君は御空(みそら)の夕雲男

与謝野晶子『佐保姫』〈1909年)

出逢って、恋をして関係が深まり、ふたり別々に歩いていた道が重なっていく。やがてともに暮らすようにもなり、また年月とともに、おのおのが抱く感情もかわる。目の前に立っているひとは同じなのに、恋だけが遥かな過去におきざりになる。

女は、すこし苛立ちながら、男との関係を考える。「夕雲男」に、女の捻じれた深い愛情を感じてしまう。「みづからの恋のきゆるをあやしまぬ」と、かわっていくことに何の後ろめたさもない男を批判し、新しい愛の関係を結びたいと願っているのだ。
ただ、「恋のきゆる」のは男だけではない、ともおもう。女自身も、恋ではなくなっていくみずからの感情をさびしく見送っていて、この歌にはそういった内省もある。
実際、同じ歌集のなかに「恋ひぬべき人をわすれて相よりぬその不覚者(ふかくもの)この不覚者」というストレートな歌もあり、いたたまれなくなった。
このふたりの関係。片方が相手に頼るというものではなく、あくまでも対等なのがいい。

歌集刊行の年、晶子は32歳、鉄幹37歳。この歌は、結婚して数年たったころの歌である。
また、1909年といえば、4月には山川登美子が死去している。鉄幹が詠んだ登美子の挽歌に

    な告(の)りそと古きわかれに云ひしことかの大空に似たる秘めごと

があり、いろいろな意味で晶子と鉄幹ふたりの機微がうかがえる。