大松 達知のアーカイブ

ねむれ千年、ねむりさめたら一椀の粥たべてまたねむれ千年

山深きあかとき闇や。火をすりて、片時見えしわが立ち処(ド)かも

灯台に白きちいさき柵の見ゆさっきまで手が握りていたり

たとへばジョージア・オキーフの花 真鍮のノブを回したところに待つは

張りのある声の戻らば走りゆく橇を曳きゐる鹿呼びとめむ

かたつむりとつぶやくときのやさしさは腋下にかすか汗滲(し)むごとし

燐寸使ふことの少なくなりしより闇照らすなし濃密の闇を

ジャガイモの芽を丁寧にとりながらまだ沈黙に慣れない背中

〈中ピ連〉をネット検索せしときに「中年ピアノ愛好者連盟」が出る

もう充分にあなたのことを思つたから今日のわたしは曼珠沙華

ま夜なかのバス一つないくらやみが何故(なぜ)かどうしても突きぬけられぬ

産むという言葉の不遜わたくしは子を運び来し小舟にすぎず

覚めぎはの足冷ゆまこと冬来たる凛乎ときたる冬嘉(よみ)すべし

銃弾が打ち貫きし手帳がそのままに行李の中に収められゐぬ

さようなら。人が通るとピンポンって鳴りだすようなとこはもう嫌

俺という一人称を持たざれば伝えきれない奔流のある

酔ひにたりわれゑひにたり真心もこもれる酒にわれ酔ひにたり

白昼に覚めたる眼(まなこ)ひらきつつ舟の骨格を見わたすごとし

からだのないわたしはだれに見えるのか酢のような匂いをひとはうたがう

連れられてシベリア出兵を駅に送る兵と馬とのただ長き貨車

俳優の演技終はりて曲げゐたる細枝しづかに戻す助手の手

輸送機と爆撃機の音聴き分けるうすくれなゐの夕さりの耳

プラカード持ちしほてりを残す手に汝に伝えん受話器をつかむ

喪主として立つ日のあらむ弟と一つの皿にいちごを分ける

山いもをすすりあげたる口もとと何の脈絡もなく塔がある

引伸ばせし寫眞の隅の卓のうへ黑きはきみの手袋と知りぬ

あ、ではなくああ、であろうか学校に踏み入るときの人の言葉は

水田に横転してゐる特急の写真を見ては和らぐこころ

ひとりゐて飯(いひ)くふわれは漬茄子(つけなす)を嚙むおとさへややさしくきこゆ

井戸のあり腕を伸ばせば水底に冷やしおきたる我のふるさと

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