2009年11月のアーカイブ

耄(おいほ)けてぬくもりがたき床ぬちに入るるを思へはだか童女(わらはめ)

家々はリースをドアに飾りつつ兵士がやがて帰り来むドア

冬池に眠る白鳥の華やぎに似し白菜を厨に殺(あや)む

恋人と怪獣映画見て冬の街へここでは何も起きない

はつ霜のとけて光れる畑土のへだたれば永久にやさしき父よ

まなざしにはふれないやうにかきあげる火星の土の色の前髪

ふたつつめたく掌ありて白樺の幹に冬陽を確かめている

往還の道の辺にある丸き石 この石にだけは勝たむと思ふ

垂直の街に来る朝われらみな誰かうまれむまへの日を生く

立つと……あなたの背中どこまでも伸びてゆくように他人ね。

冬は冬の枝かたちよき玉蘭(はくれん)につくづくとゐる一つひよどり

見ないまま抱きあふとき骨格のふかさの中でわが咽喉ほそき

手のひらに豆腐ゆれゐるうす明かり 漂ふ民は吾かもしれず

おそ秋の陽が氾濫する街をきて憎むこと多き愛をおもえり

自らにつぶやくように小(ち)さくなりしかれども炎(ほ)はおさまりみせぬ

相聞もインターネットでかわす恋仮想現実ゲームのなかで

子は天与の者にてあるか秋の陽は贋金(にせがね)のごと黄菊を照らす

「さびしい時うさぎは死ぬ」と母言ひき呪文めきたるさびしき言葉

苦しみの実りのごとき柿ありて切なしわれの届かぬ高さ

おとうとはとほくてたふとい 其の背なにいつより触れずわれらねびゆき

雨蛙刺されしのちの脚いたく長しと思ひぬ冬庭の鉢

壮年期過ぎむとしつつ一人称「われ」といへどもはるかなる他者

木枯の生まれた海にゆくまでは文字はやさしい鍵だったのに

見覚えのあるコート着て長椅子に偶像のごとき妻ゐたりけり

いびつなる青きくわりんを黄にかふるおほいなる手よ悲しみの手よ

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