2011年03月のアーカイブ

うつたうしき気分の父とカバを見るカバは目つむる花降るときを

雨の日のさくらはうすき花びらを傘に置き地に置き記憶にも置く

家々に釘の芽しずみ神御衣(かむみそ)のごとくひろがる桜花かな

ほらあれさ何て言ふのか晴朗なあれだよパイナップルの彼方の

白鳥の飛来地をいくつ隠したる東北のやはらかき肉体は

思ひ屈してゐたるわが身は立ち上り食ととのへむ籠さげて出づ

真木(まき)ふかき谿よりいづる山水(やまみづ)の常あたらしき生命(いのち)あらしめ

残党を狩るごとく口腔内のフォワグラ舌で拭ひたりけり

人どよむ春の街ゆきふとおもふふるさとの海の鴎啼く声

干し網は白く芝生にうたれつつ輝く時のいまは過ぎゆく

心底をのぞけば仏像を彫る男ゐて折々の鑿(のみ)が光れり

しづけさは座卓のしたのゆふぐれの猫のぬくもり右腿に添ふ

美(は)しきもの告げるにはやき仲なれば沈む夕陽は沈ませておく

蒲団より片手を出して苦しみを表現しておれば母に踏まれつ

まもなく君が帰り来る夜を見つめたり あをあをと埃のやうな月光

こんなにも赤いものかと昇る日を両手に受けて嗅いでみた

若ければジゴクノカマブタという花のつまらなく咲く春の畔道

口にしないすべてのことを受けとめるようにシチューが並ぶ食卓

おーい列曲がつてゐる、と言ひかけて 眼(まなこ)閉ぢれば春の日はさす

知る人ぞ知る体温として残れかし辞書への赤字を日々に重ねて

残されし私物のゆえによみがえる人の名のありすすむ昼飯

山岸に、昼を 地(ヂ)虫の鳴き満ちて、このしづけさに 身はつかれたり

春の陽に百人午睡する電車ピンキンピンジン海を横切る

泡立てて体擦(す)りつつほとほとに飽けりからだは鍋より大き

面長き享保の女雛のまなじりにやどれり春の破れた力

歪形(わいけい)歯車の かんまんなきざみの意志たちの冷静なかみあいの、──この地球のこのおもいおもい午後

挽歌ふたつときの間に成り成りしことのふいに膝頭さむきわれかも

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