2013年07月のアーカイブ

坂の上に桜揺れおりうっすらと眠りが坂よりおりてくるなり

もう死にたい まだ死なない 山須臾の緑の青葉 朝の日に揺れているなり

午後三時県境に雲影(エコー)あらはれて丹波太郎はいま生まれたる

十四インチ望遠鏡のレンズいつぱいに這入つて来た巨大な月!

前よりはきたらず後より追いついて追い越されゆく齢とおもう

まるまると尻割れズボンよりこぼれたる白桃ふたつ小川に映る

枯れ色にもう抗わぬ冬の街に赤信号は明滅しおり

フライパンに胡麻をゆすれば胡麻のなき円形現はる つねに一か所

淋しさは壊してしまえ生牡蠣(なまがき)に檸檬をしぼるその力もて

暗やみにマッチをすりて残像のかがやく視野をしばらく歩む

陸橋に棄てられてゐる虹色の買物袋風はらみをり

海を過去、空をその他とおもひつつ海上飛べる鷗見てをり

拾ひたる落葉は星にかくも似て一つの旅をわれは終へたり

生業はのどぼとけかも声に打ち人を打ち赤くなるのどぼとけ

匂ひ鋭(と)く熟(う)るる果実をわが割(さ)くをまどろみのなか夢に見てゐつ

繁みたてる梢をこむる朝もやの白きが中を鳥翔けりゆく

蜂蜜にカリンの輪切り五つ六つ浮かせて風邪を待つごとくゐる

はらわたをさらすがごとくドアひらき総武線、中央線の客ら交らふ  

吊り橋と吊り橋をゆく人々の影うつしゐる秋の川底

君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて こけのむすまで

たぶの樹を見に行つたらしい 暮れがたの二階の気配失せてしばらく

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

梢(うれ)たかく辛夷の花芽ひかり放ちまだ見ぬ乳房われは恋ふるも

夜な夜なを夢に入りくる花苑の花さはにありてことごとく白し

忘られし帽子のごとく置かれあり畳の上の晩夏のひかり

夏空は帽子のつばに区切られて銅貨のように落ちてゆく鳥

床屋よりもどりて夕刊読む夫のにわかに齢(よわい)かたぶくうなじ

月別アーカイブ


著者別アーカイブ