2014年04月のアーカイブ

人去りし公衆便所の白きドア 開きたるまま日の暮れてゆく

あかげらの叩く音するあさまだき音たえてさびしうつりしならむ

空高く手を 人体はみづからの腋下に口をつけえぬかたち

みほとけ の うつらまなこ に いにしへ の やまとくにばら かすみて ある らし

何ひとつたくはへ持たぬ鳥の群身ひとつにて北へ飛び立つ

くわんおん の しろき ひたひ に やうらく の かげ うごかして かぜ わたる みゆ

ブロッコリーの花を咲かせて生けている米寿の母のふしぎひろがる

ゆく春や とおく〈百済〉をみにきしとたれかはかなきはがききている

散髪を終へたる頭持ち歩き何かひらめく寸前にあり

草原を駈けくるきみの胸が揺れただそれのみの思慕かもしれぬ

かげろうの卵にも似て街灯はわれらの帰る場所へつづけり

春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ

置時計よりも静かに父がいる春のみぞれのふるゆうまぐれ

沈み果つる入日の際にあらはれぬ霞める山のなほ奥の峰

死は意外に靜かなるものとその妻に言ひのこしたり醫として生きて

深山木のその梢とも見えざりし桜は花にあらはれにけり

そうやって誰もがいなくなる夜をコップの底のように過ごした

白玉の美蕃登をもちて少女子は夜咲く花の嘆きするらむ

わが顔に夜空の星のごときもの老人斑を悲しまず見よ

四月七日午後の日広くまぶしかりゆれゆく如しゆれ来る如し

いちまいの紙切れのごとく置かれある日影をけさの幸と見ん

石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも

銀のビーズつなぎてゐたる雪の夜の初潮のごとく死はふいにくる

萱ざうの小さき萌を見てをれば胸のあたりがうれしくなりぬ

老いてなほ気どりて来るは我のみか白髪頭にデニムのいで立ち

たれこめて春の行方も知らぬ間に待ちし桜もうつろひにけり

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