2018年10月のアーカイブ

きさらぎの雪にかをりて家族らは帰ることなき外出をせよ

人のために使ふことなしひと月を流れていきしお金を思ふ

なんと俺、短い名前がだいすきで「手」と名乗る女の胸を揉む

おびただしい黒いビーズを刺繍する死よその音を半音上げよ

薔薇色の馬ゑがきたるワンピース着たるをみなごちちははを捨てよ

たてがみに触れつつ待った青空がわたしのことを思い出すのを

秋分の日の電車にて床(ゆか)にさす光もともに運ばれて行く

たてがみに触れつつ待った青空がわたしのことを思い出すのを

降圧剤一錠を嚥む夕まぐれ 五階まで来た蟻を祝へり

白き雲流れゆくなり 雲梯を這って渡ったこと一度ある

男の子となかよくなって飲みに行く帰りに光るサンリオショップ

光る川 光る欄干 君は今日光ったものを忘れるだろう

くらがりにわがみづからの片手もて星なる時計を腕より外す

チチチチと鳴いてゐるのかこの小鳥握らばきつと温かならむ

豚のいる村があってハムになるめぐりしずかに夕焼けてゆく

みぎの手をそらにかざしてうたふこゑ君はやつぱり晴れをとこゆゑ

右眉の白髪一本切りたくて鏡のなかに入りゆく鋏

僕は今幸せのはず膝に来てアリ三匹が遊んでいるし

牛乳が切れたら次の牛乳をあぶない橋をわたるみたいに

足元にさっき落としたふでばことそこから散ったひとときの色

ぼくの窓をかるくすりぬけ日本語のてざはりのない女の子たち

足のうらを剝がし剥がしてゆくことを歩くと呼べり生きると呼べり

義母のよそうご飯かと思い振り向けば紫陽花白く低く咲きおり

たちまちに声のみとなり行く鳥のゆふやけぞらの喉ふかくゆく

がんばったところで誰も見ていない日本の北で窓開けている

ざつとまたひと雨あらん包丁に水よくなじむ夏のゆふぐれ

チーズ濃く香る朝なり遠景に書物のごとき森ある九月

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