都築 直子


「中央線で死ぬことなんてやめてほら日高本線でのびのびと死ね」

松木秀『親切な郷愁』(2013年)

 

ブラック・ユーモアの歌である。

「2012年の全国の自殺者数は、前年より2885人(9.4%)少ない2万7766人(速報値)となり、1997年以来、15年ぶりに3万人を下回ったことが17日、警察庁のまとめで分かった。3年連続の減少」と去る1月17日付の日経新聞電子版は伝える。人口10万人当たりの自殺死亡率(2009年)は、「リトアニアの34.1が世界最高で、韓国の31.0が2番目に高い」という。日本の数字は24.4だ。

 

日本の自殺率が高いか低いかは、どの国と比べるかによるので一概にいえないが、少なくとも、首都圏に住んで日ごろJRや地下鉄を利用する私の実感では、自殺は頻繁だ。飛び込み自殺で電車が遅れることがよくある。駅構内に「人身事故」のアナウンスが流れ、誰も騒がず、しばらく電車が来ないのを除けば何事もなかったように時が過ぎてゆく。そんなホームで電車を待っていると、SF映画の登場人物になったような気がする。自殺が日常の惑星都市Xの私。

 

しかしいま、厚生労働省ホームページ「手段別にみた自殺」を覗けば、「飛び込み」は思いのほか少数派だ。2003年における自殺方法の内訳は、男女とも「縊首」がトップで(女の58%、男の66%)、2位は女が「飛び降り」(12%)、男は「ガス」(13%)であり、以下「薬物」「溺死」が続く。「飛び込み」は、女の3%、男の2%にすぎない。すぎないが、首都圏居住者の実感は「頻繁」である。もしも数字が2~3%でなく10%だとしたら、「人身事故」の放送は「頻繁」などというレベルではなくなるのだろう。

 

さて歌は、飛び込み自殺をするなら、迷惑する人間が多い中央線でなく、景色がいい日高本線に飛びこんでのびのびと死ね、という。自殺する側にいわせれば、そんなことを冷静に考えられるくらいなら自殺などしない、ということになるが、むろん作者は百も承知だ。「中央線」を素材にするのは、鉄道の中で自殺者数が日本一と報道されているからだろう。カギカッコはその中のことばが中央線の乗客の発話であることを示す、と読む。車中で「人身事故」のアナウンスを聞いた乗客の怒りのことばだ。「日高本線」が出てくるのは、作者の居住地が北海道だからだろう。日高本線は、北海道中央南部、太平洋岸の苫小牧―様似間を走る。いわゆる動く部分であり、風光明媚な地の路線、たとえば信州の大糸線、九州の肥薩線でも成立する。作者はそこに「歌の作り手は北海道の者です」というメッセージを入れてみた。一首のご愛嬌、遊びの部分だ。

 

このたび私は初めて日高本線の画像を検索し、沿線風景の美しさに目をみはった。なるほど「のびのび死ぬ」には最高のロケーションだ。しかし、長年の赤字路線であり廃線の噂が絶えないらしい。全国の飛び込み志願者諸君よ、日高本線に急げ。