三井修


職場の恋職場で話す 友は彼を「〈七階〉が」って居る階で呼ぶ

水上芙季『水底の月』(2016年、柊書房)

 職場の給湯室などでのOL同士の会話であろうが、少しばかりややこしい構造の作品であるる。作者の職場の「友」が、例えば「昨日七階がね、急に電話してきて‥‥」などと話してくる。。皆は「友」の彼は同じビルの七階で働いていていることを知っているので、それで判ってしまうのだ。秘めた恋ではなくて、周囲の人たちもみな知っている公然とした職場恋愛のようだ。作者と「友」はそれ以外の階、例えば五階などで働いているのであろう。恐らく同じ組織で部署が違うのだと思われる。

 日本語では、このように人の事を、その人が住んでいる場所で呼ぶことがある。例えは、福岡に親戚が居れば「昨日、福岡からこんなことを言ってきてね‥‥」と言えば少なくとも家族の間ではそれで通じてしまう。福岡には人間は沢山住んでいるが、話し手にとって関係の深い福岡の人と言えば、その人しか居ないからだ。もっと昔の話をすれば、「六波羅殿」、「鎌倉殿」などもこの類の使い方であろうが、こちらの方は婉曲という意味もあるのだろう。一方で、掲出歌の「七階」には「友」の含羞の気持ちも少し含まれているように思える。

 掲出歌、まず〈七階〉と普通の数詞を山括弧で囲むことによって、その数詞には特別の意味が含まれていることを示唆し、さらに「が」まで含めて普通の括弧で囲み、その括弧内が「友」の発言内容であることを示すという構造になっている。若い女性同士の職場における屈託のない会話が巧みに表現されている一種である。文体の構造はややこしいが、意味は明確で、若い女性らしいきびきびした印象も受ける。

     抱きたり赤児と同じ熱を持つコピーしたての会議資料を

     ダンナとか保育園とか保険とかさういふ会話はあとでやつてよ

     ひきました。仕事に支障はないけれど君が少しは心配する風邪