光森裕樹


変人と思われながら生きてゆく自転車ギヤは一番軽く

雪舟えま『たんぽるぽる』(短歌研究社:2011年)


(☜3月31日(金)「人から見た自分 (3)」より続く)

 

◆ 人から見た自分 (4)

 

掲出歌と同じ連作「たんぽるぽる」から、歌集題に採られた歌を引いた。前回の天道なおの一首「新姓を貼り付けられて生き延びるこのベランダは終着点なり」と比べると、雪舟えまの歌の方は、結婚によって姓が変わったことに対して弾むような楽しい感覚に溢れている。
 

不思議なことに「たんぽぽ」よりも「たんぽるぽる」のほうが、蒲公英が持つささやかで陽気な在り方をより的確に表した名前のように感じられる。それは、姓が変わったことで、従来の私自身との一貫性が途切れるというよりは、むしろより自分らしさが現れてきたような気持ちを感じているからなのかもしれない。
 

そのためか、掲出歌を最初に読んだときには「人と思われながら――」と読んでしまった。結婚したけれどまだ人からは恋人同士のように見られている、という関係の新鮮さを歌った一首だと感じていたところ、よくよく読むと「人」ではなく「人」であったことに気付き、非常に衝撃を受けた。
 

「変人と思われながら生きてゆく」と書かれていると、当然その理由を知りたくなる。そんな思いで下の句をまじまじと見つめる。「自転車ギヤは一番軽く」というのは、変なことではない…な、と自分自身のなかで何度か確かめる間があったのち、周囲の目を気にもしない軽やかな展開で一首が終わったことに遅れて気付く。
 

おそらく、「私」自身も何故人から「変人」と思われているかは分かっていないのかもしれない。
 

なんとなく周囲と自分との違いを感じながらも、そんなことはちょっとした坂道ぐらいに考えて、ギヤを軽くした自転車のペダルに漕いでいく――
 
 

(☞次回、4月5日(水)「人から見た自分 (5)」へと続く)