松川洋子『月とマザーグース』(2012年・本阿弥書店)
作者は北海道に住む。『月とマザーグース』を読んでいると、いわゆる日本の四季を前提にして捉えられる概念とは違う季節の巡りがとらえられていると気づく。かならずしも風土に因るものではないかもしれないが、どこかスケールが大きい。そうして、発想が自由である。
言語は人類を他と区別するもっとも大きな特色とされる交流手段だが、種のあいだには他にわからないような会話があるだろうと、作者は空想している。人間の考える言語とは違うかもしれないが、鳥には「鳥語」、星には「星語」、草には「草語」があり会話している。モノ同士にも交流があると考える。童心を忘れないでいるともいえるが、そう言って通り過ぎる気にならない。それは、生きて来た時間が作者につちかった思想だと思われる。
昆虫のおほかたは武者の顔をしてのっぺり顔のヒトを無視する
きみは月派と問はれしはきのふ 昨日とは六十年前戰止みし日
大魚ほど深く沈むと
歌集の視点は多角的だ。人間は、世界に生きる生命体、植物や動物の中の一つの種として捉えられている。だから、社会や歴史に対する関心も範囲が広く、思考が人間中心主義に陥らずにいる。歌は平易だが、籠められている思想が、読者にものを深く思わせる。