今井 恵子


けつたいなしぶい子やつたそれがかうほとりと美味い、渋柿を食ふ

池田はるみ『正座』(2016年・青磁社)

 

何十年も前、一緒に新幹線に乗ってお喋りをしていた関西出身の友人が、関東と関西の違いを力説していたことがある。わたしは首都圏を出たことがないので、どこがどう違うのか分からなかった。ほんとうのところは今でも分からない。だから、関西言葉がとても新鮮。標準語では言い表せないニュアンスを、するりと言ってのける。つくづく標準語は味気ないと思う。

 

作者は長く東京に住んでいるが、大阪の出身。大阪弁を歌に歌に上手くとりこんでいるというだけでなく、肩ひじ張らず、言葉の行き交いを楽しみながら、するりと核心へ読者をみちびくところが、関西文化に疎いわたしには、土地言葉が内蔵する力だとも思える。

 

3人の孫を得て父母から孫へという命を、「死を受け入れている」自分が見ていると、「あとがき」にあり、たしかに孫の歌が多い。しかし一般の孫の歌と違って、そこに、人生の豊饒が感じられる。渋柿の旨味をたっぷりと味わっている。

この歌の「子」は、柿だが、人間だって同じだと言いたいのだろう。「けつたいなしぶい子」の味わいだ。

 

へつこんだアルミの鍋の両取手ぐわつとつかみき戦後の母は

遠い遠いロシア革命 大鵬の父をおもへば灯りのごとし

おととしは知らないひとだが婚姻によりて集へる人とはなりぬ

 

作者は短歌界きっての相撲通である。「遠い遠いロシア」の歌は、連作「大鵬とその父」から。歴史や時代や生きる哀歓がこめられ感動的。