夏の大セールで買った妹はセーター厚地のヒツジの柄の

椛沢知世「ノウゼンカズラ」ねむらない樹vol.8 書肆侃侃房 2022.02

 

ぎょっとする。そしてすぐに、もう一度読み返す。そこでようやく、妹が夏のセールで購ったのはひつじ柄のセーターである、と読み取って、こころを落ち着かせようとする。

どこで区切るかによって、内容が全く異なってしまう歌です。

 

選考会では染野太朗さんが「これは語順に微妙な違和感が残る。妙に粘着質。内容としては、妹が夏のセールでヒツジ柄のセーターを買った、ということだと思うんですが、なんだか異様」、永井祐さんが「「夏の大セールで買った妹」とあって、これは妹を買ったというニュアンスを残していると思うんですね」と発言されています。また、大賞を決定する段階では、大森さんが「セーターを買う歌とか、語順とか主語のわからなさがよい方向に作用していない歌もけっこうあると思ったんですよね」とも。

 

①夏の大セールで妹は厚地のヒツジの柄のセーターを買った

これがもっとも現実的な読み方。しかしその意味を取るためには、

夏の大セールで買った(。)/妹は(買った)/セーター(を)/厚地のヒツジの柄の(セーターを)

と、言葉の確認、補足、そしていくつもの句切れを複雑に交差せねばならない。

 

②夏の大セールで買った妹=セーター=厚地のヒツジの柄

これがはじめにぎょっとしたほうの読み方。妹がもこもことしたセーターで、しかもそれはクリアランスの季節にもそぐわないセール品。そのうえただのセールではなく「大セール」。何故だか大雑把に商品の陳列された、ひとびとでごった返す売り場を想像させます。

しかしながらこの内容をすくうためには、

夏の大セールで買った妹はセーター(厚地のヒツジの柄の)

と、①の読み方とは打って変わって、すんなりと語順が作用しているのがわかります。

「せえたああつじのひつじのがらの」の音韻も、なんだか朗らかで、それゆえに②の読み方だと内容がそぐわなくってほのこわいのです。

 

すんなり受け流そうとすると、わたしたちをぎょっとさせる。もっともやさしく、理解の及びやすい読み方をしようとすると、それは複雑で、ゆえにしっかりと言葉を拾わせる。そこに、ふしぎな吸引力を感じました。

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