昨日の雪わが家裏に吹きだまりあはれゆふべは薄明りせる

大我幸藏『夕映』(私家版、2022年)

 

昨日の雪がまだとけきらず、家の裏にたまっているのがみえる。「ゆふべ」は夕どき。一日すぎて、その白きものが「薄明り」しているのが目にとまったのだ。歌集巻頭のうたにして幽玄の一首である。本のなかでは、

 

昨日きぞの雪わが家裏に吹きだまりあはれゆふべは薄明りせる

 

とルビがふってある。

 

吹きだまり、という名詞があるが、ここでは吹きだまる、と動詞のようにつかって昨日の雪のまさに降っている光景をよみがえらせている。その時間空間を含みながら、今日のひとひが過ぎた。

 

家の裏の陰なるところに吹き寄せられてとけのこる雪には、ほのかに暗喩の気分さえただよう。それがたえなるひかりを発している、というところにだからことさら感慨があるわけだが、この「あはれ」は、時間空間の転換とともに、このふたつの陰と陽とをえがきわける仲立ちにもなっているようだ。

 

連体形止めの余韻のなかに、このかすかな雪洞ぼんぼりのような光景が、しばしもとどまってあるのを感じながら読んだ。昭和四十九年から昭和五十八年のうたを中心におさめた、これがさいごの歌集となった一冊より。

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