てんたうむしさんおきてーと薄明の小さなる死へ児は呼びかけつ

『ひかりの針がうたふ』黒瀬珂瀾

 太陽暦の三月五日、あるいは六日は啓蟄の日。冬ごもりの虫が這い出る頃とされている。この歌のてんとう虫は地上に早く出て来すぎて死んでしまったのか。動かないその虫に向かって「てんたうむしさんおきてー」と呼びかけている幼子の声がなんとも愛らしい。まだ死を知らない子の声をそのまま生かすなど、切り取った情景も鮮やかである。

おそらく、この子も、やがて「薄明の小さなる死」を知ることだろう。いのちの仕組みやその哀しみとともに、と父は思う。幼子のいたいけな声を通して、作者である父の生命への哀しみが伝わってくる歌である。歌集は二〇二一年刊行。

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