『月白』柏崎驍二
妻が「ひとつづつひかる林檎を包みゐる」と歌われている。紙で包んでいるのだろうか、何のために?誰かに贈るのかとも思うがはっきりとはわからない。だが、大切にあつかっていることは十分に感じられる。ひとつづつ、ひかる、つつむという言葉の流れもやさしい。そしてこの「ひかる林檎」は上句の「星」と響き合って、わたしになにか「星」を磨いているような錯覚をも覚えさせる。夜空には「星」があり、その光に「冷ゆる厨」で「ひかる林檎」を包んでいる妻――天空と地上をつなぐ情景を童話のように語るのである。柏崎は岩手県生まれ。同郷に宮沢賢治がいることを思い出しつつ、星や林檎に囲まれて静かにひかりを放つ妻の清潔なリリシズムに打たれるのである。一九九四年刊行。