『さびしき蛞蝓』喜多弘樹
「相聞雑歌」と題された中の一首。「嫁がざる君」とはどのような関りのある人なのかはわからないが、その「君」を思うと、「あめつちに秋白光のなだれゆくべし」と思慕の心を大きく歌い上げている。「あめつち(天地)」を引き入れた壮大なこの言葉は、何よりも作者の浪漫性の強さをあらわしているが、「秋白光」という言葉のためだろうか、そこからは熱量よりも清らかさが伝わってくる。そしてこのイメージは、同時に「君」の涼しげな風貌や白い肢体をも読み手に思い浮かばせるだろう。一連には「某年晩秋の日に」と言葉を添えて、「ほのかにも温みをもてる白き肌この星空に湯浴みをなせり」という一首もある。「白き肌」「湯浴み」などエロスを含む言葉と「星空」の空間に流れる相聞の情は、この作者ならではのものであろう。二〇〇六年刊行の第二歌集。