『鳥影』花山多佳子
近頃ときおり報じられる、高速道路を逆走する老人のニュース。高速道路への進入口を間違えた結果なのだが、驚くのはそのまま気づかずに何キロかを走ってしまうということである。危険この上ない状況に対処する余裕が無くなっているのか、それとも危険な状況を自覚していないのか。老齢運転の実態をまざまざと知らされるのだが、それ以上にこの歌には、老いの身体や心に潜む狂気のようなものを暗示している怖さがあるだろう。「死」へ向かって独善的に逆走して「高速道路」を突っ走るような心の「老いの末路」とは、わたしやあなた自身のことでもあると知らされるのだ。「老いの末路をなんといふべき」という嘆息には、そういう言いようのない暗い声が隠されているだろう。歌い出しの「高速道路逆走」という言葉から「なんといふべき」の結句まで、明確な言葉を一直線に走らせて、強い衝撃をもたらす一首である。二〇一九年刊行。