『手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』穂村弘
体に空いた大きな穴のような孤独感を、あくまでもほがらかに、明るく歌う。穂村弘の歌にはそんな感じがある。この歌にしても、第一声の「ハロー」という挨拶からして、あっけらかんと異様に明るい響きだ。しかも三回も繰り返され、「ハロー」と繰り返されるたびに、読み手の方にはいよいよ淋しさが増してくるようだ。おそらくそれが言葉の逆説的効果なのだろう。挨拶の対象は「夜」と「静かな霜柱」と「カップヌードルの海老たち」というように、しだいに大きなものから微小なものへ、抽象的なものから具体的なものへと変化していく。ただし、挨拶の対象にはヒトが欠けている。なかでもユニークなのは「カップヌードルの海老たち」への挨拶であるが、その干からびた、小さな、赤い海老へのいとしみには、自閉的な、しかし遊びのように自由な愛の交流がほのみえているだろう。この一首、従来の歌からは言葉も姿も鮮やかに遠い異種のように見えて、しかししらべの上では完全に歌である。二〇〇一年刊行。