『種子のまつぶさ』佐波洋子
歌集名になっている歌である。数珠玉は秋のはじめに花をつけ、その後硬い骨質の実をむすぶが、それが数珠に似ているところからこの名がある。幼い時この数珠のような実で遊んだ経験があるが、歌の中でも「数珠玉の草の末枯れに数珠玉が」と言葉を転がすように繰りかえして、童唄のような懐かしさを感じさせる。この言葉のしらべでまず記憶させてしまう歌だろう。下句ではその言葉を巧みに転回してゆく。「まつぶさ」とは完全に整い、そなわっているさまという意味だが、数珠玉の種子が己の「まつぶさ」を完成させようとしているということだろうか。むろんそれは自身の生きる姿に重なっているのだろう。この歌集の「あとがき」には、永い闘病の夫を亡くした後の「空漠たる日々は別の時間への入り口を探る日々」であったと記されている。「まつぶさ遂げん」とは、明日に向けての作者の心中の思いであるのだろう。二〇二三年刊行の第六歌集。