中津 昌子


ひとひらの置手紙ある朝なり皿白く輝(て)り誰もをらざり

上村典子『開放弦』(2001年)

 

 

先に出かけていった人が残していった手紙。
〈わたし〉は、後から起きてきて、それを発見する。
そばには、白い皿があり、誰もいない部屋がことさら静かだ。

 

置かれていたのは、今日は何時に帰る、といったような、ちょっとしたメモだったのかもしれない。
でも、どんな簡単なものであれ、人から人へのことばであれば、そこに存在するつながりを思えば、「置手紙」はあたたかさをそもそも持っているものだともいえる(逆にずいぶん深刻な場面におけるそれもあるが)。

ただ、この歌の「置手紙」は、明らかにそれを置いていった人が、今ここにいないことを意識させるものとなっている。

「ひとひらの」という、はかなげな雰囲気のあることばではじめ、無機質に輝く皿の白さを効果的に添え、生活の中で、どうという理由もなく、吸い込まれるようにはまり込む“ひとり”をとらえる。

 

・胸びれのいちまい剝がすやうにして手紙を朝投函したり

・三行の鉛筆書きの追伸を雨のあかりにまた読みかへす

手紙をめぐる人の心のありよう。