さいかち 真のアーカイブ

わが戦友らいのち死ゆきし草丘のいくつを越ゆる時雨降りつつ

「ゴメンネ」と羞しく言いて寝につきし夫の夜毎の言葉忘れず

いぢめられいぢめられてもついてくる榎本君がおそろしくなる

花崗岩の花ひらく巓をとりかこみ五峰・天女・勢至・無涯峰とうちよせる天上の奏楽

わたくしが<私>を検索するといふ遊びの果てに襲ひ来るもの

風吹かぬ山かげに来ればあたたかし月照りみちて虫の音多し

過ぎてゆく一日一日をまた秋の光となりて茶の花咲けり

白波のはたてかすめる志賀島再び人を恋いて来ぬれば

後の世を生くるあはれさ子供らの歓声秋の空に澄みたり

昂りを鎮めんとして噴き上ぐる思いのあれば生きているなり

吾が妻の笑まひは清し傍にみどり児はまだうぶ毛ぬれたり

ばあちゃん家いきたくならない? 冬に窓あけてソーセージゆでてたら

沖あひの浮きのごとくに見えかくれしてゐるこころといふけだものは

つくづくとゆめにしあへればふかどより少年魂のいたみふきあぐる

草の実も木の実も浄き糧ならず鳥よ瞋りて空に交差せよ

百日紅のひかりのはだら地にゆれて忘れてゐたる約束ひとつ

わが恋に汁椀ほどのみづあかりあれば朝夕机辺にひかる

声なきは静かな脅威蟻の群れにじつとりと昼を囲まれてゐる

一山をゆるがしすぐる風のこゑしましはやがてひそまりにけり

むらぎものこころいこはずいくとし月すぎこしはてのこの疲れかも

本棚の上に鏡を立てかけてあり合わせから始まる暮らし

存在の尊厳として草光ることばとならぬ生といふべく

深々と裾野を埋めし雲の海のいまだ見えゐて山は暮れゆく

廃村につづく坂道グーグルにおおかた消えしにっぽんの道

吹きあげてこもれる風にしばしばを大樹のごとくふくらむが見ゆ

十代の自分を恋えりローリング・ストーンズ聞いて幸せだった

まひまひは負ふ家さへも涼しげに海鳴りきこゆる石塀をゆく

蛇臭き雨空なれど君は言はず蒸暑く光る泥道急ぐ

こんなにも広くて大きな腕がほし明石海峡大橋は父

すぎさつた時間のなかに和服着るすずめが居りてときをり踊る

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