Archive for the '今日の一首鑑賞' category

佐藤通雅/人の骨やもしれぬ白、砂にあり洋の聖者のごとくに屈む

伊藤香世子/頭良くなると信じて食卓の味の素振りし昭和の生まれ

佐藤通雅/氷山の一角のその一角が光放つ今朝の新聞欄に

橋場悦子/〈当職〉といふ主語による通知書に封をす切手の裏は舐めない

佐藤通雅/期日前投票初日間仕切りに首を入るるは馬のごとしも

本川克幸/陸岸のかたちを指でなぞるとき仄あたたかきレーダー画面

上田康彦/携帯と鍵を忘れて妻を待つ和金のような鰯雲見つつ

筑波杏明/われは一人の死の意味にながく苦しまむ六月十五日の警官として

藤原道長/この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば

大辻隆弘/東京を敵地とぞ思ひ来しことのあはあはとして中野梅雨寒

前川佐重郎/夏草の一茎にありてしづみゐし蟷螂(かまきり)の眼の碧きこゑのす

寺尾登志子/わたくしといふ現象を突き抜けて見えたつもりのあなたが見えぬ

前川佐重郎/夏草をちぎりて撒(ま)けば空くらし静脈のごとき茎そそりたつ

萩原慎一郎/ひるやすみカレーうどんを食べながら愛のない暮らしなどはうんざり

前川佐重郎/鉛筆の描ける空の鋭きに一羽の鵙(もず)の研ぎて降下す

大滝貞一/つゆぞらに首掲げ咲く桔梗(きちかう)の藍(あゐ)は天安門の喪の花として

吉川宏志/琉球の玉虫ならむ掌(て)に置けり斜めに見ると浮き上がる赤

中川佐和子/故もなく撃たれしひとりを支えつつ撮れと言いたる声が伝わる

吉川宏志/旅なんて死んでからでも行けるなり鯖街道に赤い月出る

外塚喬/生(なま)蒸気がパイプを戻りくる音をとらへて午後のわが耳は鳴る

横山未来子/ふつつりと置き去りにされ乱れたる飛行機雲を風のきよめぬ

本条恵/生け垣が羊の群れになる四月「大学通り」に咲くユキヤナギ

横山未来子/あたたかき闇に背中をあづくるにふと外されて現(うつつ)へかへる

大澤サトシ/巻き返し出来ない程にひねくれた外反母趾も自分の歴史

横山未来子/視野の端(は)に君みとめつつ振り向けぬわれを真冬の海星と思ふ

沖ななも/熟れすぎの桃の匂いののぼりたち捏ねあわされて昭和はあるも

睦月都/猫をわが全存在でつつみ抱くともだちになつてくれたら魚をあげる

有沢螢/春三度(みたび)われに巡り来 動かざる手足やさしく撫づるごとくに

澤村斉美/鳥は影を、水に映れるみづからをなにと思ふらむ「少し陰つた水」

春日いづみ/手鎖の刑を受けしか今朝の夢弓手の手首に痺れ残れり

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