Archive for the '今日の一首鑑賞' category

父といふニコチンまみれの気まぐれは童女(うなゐ)の髪を指もて梳くも

湯の中に塩振りながら ブロッコリーお前程いさぎよき緑になれたら

さびしさは父のものなり水底(みなそこ)の泥擦り上げて真鯉浮かび来

春の日を家居せりけり擦れ違ふ人なくて曇りゆくわが面(おもて)

降りみだれみぎはに氷る雪よりも中空にてぞわれは消ぬべき

右半盲の母の視界の外に立ちミモザの花はあふれて咲けり

遠空に音なき雷が瞬きて人ひとり娶らんおののきを持つ

会えなくていいような気になりかけて春の枯れ葉にさし入れる足

婚姻のつめたくひかる虹のため足らざる色を持ち寄りにけり

ヒヤシンスの根の伸びゆくをみつめいる直線だけで書ける「正直」

釉薬を身体(からだ)に巻きて佇つごとし近づくわれをかすか怖れて

杉花粉に荒るるのどより朝まだき美しきあかき痰は出づるも

歌詠みの心は憎し君の詠む女はわれを超ゆわれを消す

春霞山は新たな教科書の匂いのように横たわるなり

髪あげてやや美しと思ふときひとと別れむ心定まる

蝶の翅ならば三日の距離ならむ雨水(うすい)を過ぎて手紙は書けず

逢ひたいと思ふ、思へば昼も夜も緋の澱を手に掬ふきさらぎ

春塵をうっすらと置くポストぬぐう偽名も筆名も使わず生きて

どこでもないところへゆきたい あなたでなければならないひとと

啄める林檎の肉のたっぷりとありてひそけくながれゆく時

灯消し稚き妻が息づきぬ窓の外に満ちし冬の月光

劣情が音立つるほど冷えている。きさらぎ、デスクワークのさなか

かなしくも恋と知る日はかたみにも悔いて別るる二人なるべき

そらいろの小花にとりかこまれながら電信柱けふも芽ぶかず

脱ぎ捨てた服のかたちに疲れても俺が求めるお前にはなるな

再び若くなることあらじ昨年よりも幹太く濃く椿ひらきぬ

恨みの数つもりて老いは苦しきにいにしへびとは太鼓打ちたり

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす

銜(くは)へ来し小枝はくちばしより落ちぬ改札を抜け君に笑むとき

指半分出る手袋をして会えば指半分だけが見つめられたり

月別アーカイブ


著者別アーカイブ