吉野 裕之のアーカイブ

子ども神輿のワッショイワッショイやけくそな掛け声さえも受け継がれてる

ふるさとで日ごとに出遭う夕まぐれ林のなかに縄梯子垂る

わたしたち全速力で遊ばなきや 微かに鳴つてゐる砂時計

未来より借り物をするさみしさに書物なかばの栞紐ぬく

もう愛や夢を茶化して笑うほど弱くはないし子供でもない

「夕顔の苗は残つてゐますか」とFAXを送る 地下街の花舗へ

夕光(ゆうかげ)の揺れる縁側 父がいて父のフォークが柿を刺したり

世界ばかりが輝いてゐてこの傷が痛いかどうかすらわからない

───、そして気がつけば君は子犬を抱き上げている

君の落としたハンカチを君に手渡してぼくはもとの背景にもどった

秋陽さす空の港に集ひゐるつばさ拡げしままの巨鳥(おほとり)

紙ヒコーキが日に日に紙にもどりゆく乾ける落葉だまりの上に

ユーラシアより来しもののしづけさに鯉はをりたり大砲(おほづつ)のごと

でもなあ散るにも重たげなのがなあハナミヅキどうにかならないか

初雪やてのひらに受け歩を止めてみんな近しき人となる街

もくれんのわらわら白いゆふぐれは耳も目鼻も落としてしまふ

夫と子と季節のはざまに変態し擬態し女らやはらかくゐむ

あなたにはあなたの雲の数へ方ある 新しい眼鏡が似合ふ

白昼に覚めたる眼(まなこ)ひらきつつ舟の骨格を見わたすごとし

霧雨は世界にやさしい膜をはる 君のすがたは僕と似ている

蕪よつつひだまりとなりかがやけばぼんぼんと鳴る柱時計が

わたくしの名刺どこかでシュレッダーにかけられて居ん頭が痛い

団塊の世代の構成員として父はサボテンの棘を育てる

逢ったのはインターネットそこはただ風の生まれる原っぱだった

指先の重たさはみづに沈むやう ゆらめきて髪の中に紛れた

子を抱きて名取川渡りつつ転びさらに自分がわからなくなる

手を出せば水の出てくる水道に僕らは何を失うだろう

学舎より眩暈(めまひ)をもちて見下ろせる冷泉家の庭つつじの火の手

客去れば椅子を二脚にもどしゆくしろき陶片のごとき陽のなか

すでにして海の匂いをなつかしむ仕事へ向かう雨の朝(あした)は

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