石川 美南のアーカイブ

同じ場所にとどまりたければ走ること(ただし黒鍵は踏まないように)

水際に夕日を引き込む重力が遠いわたしに服を脱がせる

だまっても口がへらない食卓にわたしの席がみあたらないが

生まれつきのことなんだから 凍ったりする 離さずにゆめの女の人のにおい

紙ふぶき大成功の、安田大サーカスというひとつの星座

走れトロイカ おまえの残す静寂に開く幾千もの門がある

円周に(指は潰れてしまったが)穴あけ回転木馬を降りる

シャボン玉まだ喜べる子がふたり 光の中に光が増える

父われを見むと来たれる東京の子もうれしみて席に加はる

電車でも眠ってともだちの部屋でも眠ってなんのために行ったのか

駆けつこの迅きは英雄となりて墜ち鈍足の群れに射せる黄昏

遠き国の雪積む貨車が目前(まさき)を過ぎ瞳吸はるるわれと少年

秀吉が大河ドラマであっさりと死んで開票三十分前

春の風いま吹けよそよ、そよとなほこほりてとざすきまじめの顔へ

嬉々として人々は見きX線通したるみづからの手、足、頭

竹群の霜とけて日にかがよへり無数なる童謡うまるるごとく

どうしても行くというなら行けばいい蝶結びふたつ胸の上にのせ

ぎんがみを解けばかすかに霧立ちて角(かど)やはらかきチョコレート出づ

鼻孔(はな)に入(い)る異物を瞬時に出ださんと赤子は顔のまなかを縮む

回覧板読むまへにシャチハタの判を押す癖は変はらず母の日々(にちにち)

含み笑いをしながら視線逸らしたる生徒をぼくの若さは叱る

雪底に押しつぶされし根の怒りある朝噴きて水仙となる

区役所の窓口に立ちなんとなくたみくさの感じにぎこちなくをり

かのときの二月岬の潮風になびきてありしえり巻きのQ

冬越えむとして厚き葉がかたはらの祈りのごとき幹に触れをり

ダイヤモンドゲームの駒を青と決めいちばん遠い場所にゆく旅

降る雪も過ぐる時雨も沁まざれば我が深淵のかたち崩れず

餅のかび百合の根などのはつかなる黄色もたのし大寒の日々

キャベジンの空き箱ひとつ抱えつつ網棚はゆく電車に乗って

カツ丼とおやこ丼とはちがふから慌てずに見よどんぶりの柄

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