Archive for the '今日の一首鑑賞' category

最上階のラウンジからの東京を宝石箱と呼んでいた頃

親にスマホもPSPも取られて良かった自由ですと日誌にあり

さようなら昼のアイロンこの家はもっと軽くていいはずだから

遠くまで行った夢だよ トーストを焼いて渡して連れ合いに言う

先生が指さすものをドイツ語で、いす、りんご、カーテン、これは、風

馬上とはあきかぜを聴く高さなりパドックをゆるく行く馬と人

みなと風 吊り広告を取り替えるひとの眼鏡に虹は映れり

無花果の果実ざくりと開かれて雨の市場に身をさらしをり

真夜中の電話口にて君に言う「死にたい」以外は全部嘘です

波がしら一つに寄せて立ちあがり暗き濁りの岸にとどろく

いましねばこれが遺影に使われる瞳にひかりがひしめくプリクラ

名残思ふまくらに残る虫の音はゆめの跡とふ心地こそすれ

林檎ほどの火にてポットを温めつきみの聴けざるきみの寝言よ

中垣のとなりの花の散る見てもつらきは春のあらしなりけり

なめらかなわたしの腕を撫でる手がわたし以外にあるべき、九月

けつたいなしぶい子やつたそれがかうほとりと美味い、渋柿を食ふ

ひとしきり思いを馳せる 自販機のしくみに まだ見ぬきみの新居に

鳥語 星語 草語さやかに秋立ちて晴れ女われの耳立ちにけり

昔からあった感じの葬儀屋の戸前にドライ・アイス・ボックス

氷売るこゑもいつしか聞きたえてちまたのやなぎ秋風ぞ吹く

アトラクション終わるみたいに叡電が出町柳のホームに参ります

食堂の黄なる硝子をさしのぞく山羊やぎの眼のごと秋はなつかし

誤って世界から離脱しないようわずかな尿意を残して眠る

うしろより『わ』とおどせしに、/先方の、おどろかざりし、/ ごとき寂しさ。

救命の練習用の人形に雑にあけられている耳穴

薄日さすしろい小皿に今朝もまたUSBを置く静かに

そういえばもう長いこと空(青いやつです)色の空を見ていない

古屋根に雨ふる駅の小暗さがのどもと深く入りくるなり

逝きかけの蟬を励ますこの夏にとくに未練はないはずなのに

すっくりと秋冥菊が咲きだして姉なき今年の秋がはじまる

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