Archive for the '今日の一首鑑賞' category

生きんため夫入院し残さるる時間のために父退院退す

皿汚しながらひとりの昼餉終へ誰にともなく手を合はせたり

どのひとも掌(て)のちさき板見つめをり板のむかうの海や砂漠を

につぽんの壺に嵌りし蛸といふ蛸はかなしゑモーリタニアの蛸

誤植あり。中野駅徒歩十二年。それでいいかもしれないけれど

いしひろうなんてひさかたぶりのこといしがこんなにつめたいなんて

わたしがいないあいだに落ちしはなびらを丸テーブルの上より拾う

そのかみの染野のあをき夕焼けがはるかに投げてよこす男の孫

カーテンを玻璃戸のうちに巡らせて古書店ノアは灯りそめたり

たそがれの舟に原子の火をのせてあなしづかなるあそび女がゐる

父居らぬ家に目覚めてもう誰も早起きをせず足音も聞こえず

つゝましく 面わやつれてゐたまへば、さびしき日々の 思ほゆるかも

ここに立つここより他に無き場所の空に枝を張り鳥遊ばせて

てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれくる

いくたびも暗証番号拒否されて機械の横に寄りかかりたり

四十五度あげてゑがきし眉尻のをみなら朝をどつと乗りくる

若竹にまたもや先を越されたり私が私を脱ぎたきときを

青駒のゆげ立つる冬さいはひのきはみとはつね夭逝ならむ

胸より胸に抱かれ花にも風にもなる火にもなるもの嬰児(みどりご)と呼ぶ

サリンジャー死にし話題は牡蠣の殻開けて啜らむとする間に終る

大写しされし鯨は赤道をひとつとびして飛沫(しぶき)をあげる

あぢさゐもばらも知らない受刑者は妻と三歳のむすめを詠ふ

生くるため不可欠なものにありし頃一丁の斧美しかりけむ

鈴鹿嶺に雪ふりつみてはるかなる稜線はわがまなかいに冴ゆ

歌の作者を知るゆゑ配慮あるらしき批評も聴きぬ被災地の歌会

意志ぢやなく空気でうごく会議室ありぬ戸外におよぐ蘭鋳

たれか死に動かぬ電車にひとびとは顔をあげずにメールを打ちぬ

行けるまで行こうと夫とつれだちて幼のごとく新雪をふむ

旧姓と新姓われをつかひわけ旧姓のときのびやかにゐる

シクロホスファミドの袋を御守りのように思いき素人であれば

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