Archive for the '今日の一首鑑賞' category

午睡より醒めれば窓はあかるくてときをり空は鳥を零せり

深呼吸は猫抱きしめて 猫の体[たい]遠くなつたり近くなつたり

磨かれて柱時計は帰り来ぬ。なお聴き継がむ、家の鼓動を

透きとほる袋を揉んで買ひしもの老爺はひとつひとつ詰めをり

桜咲くこの序破急にうつつなく残り少き時間割きをり

君が今どこかで濡れている雨がここにも降りそうで降らなくて

六月の雨吸ひつくしたる量感に山あり山の木木は立ちたり

松の樹におまへも立つたまま老いてみるがいいさと見下ろされたり

僕らには未だ見えざる五つ目の季節が窓の向うに揺れる

ひとりきてひとりたたずむ硝子戸の中の青磁の色のさびしさ

新しき眼鏡にせんと思いおり苦しみてもの書きたるのちに

足早のギマールが地下鉄に乗るまでを確かめ秋かぜの中

漂へるたましひのかたちエシャロットの若根をきざむ桜まふ午後

クロアゲハ横切る木の下闇の道 許せなくてもよいのだ、きつと

衣着けし犬がひかれてゆく土手に野良犬が首をあげて見てゐる

月出でて棹影しかと水にあり付箋のごとく ここに 見えるか

父の口に運ぶ白粥ほろほろとこぼれてしまう白はせつなし

赤煉瓦倉庫の海べ胸もとの漆塗り朱のブローチ冷ゆる

職場の恋職場で話す 友は彼を「〈七階〉が」って居る階で呼ぶ

「もう秋ね」「もう十月ね」もうという枕詞があるかのごとし

砂時計ひっくり返す人消えて針の時間が追い越してゆく

シュリーレンさよならゆれるシュリーレン甘い生活だったシュリーレン

傘さしてゆくにんげんをわらひをりたつぷりと雨にぬれて樹木は

虚空とぞ言ふべかりけり蝙蝠の飛ばなくなりし団地の空を

森茉莉は美少女なりきひとめぐりすれば老婆となる鷗外展

剪定の枝の香りの鉛筆を何本も盗らる 何本も削る

五分ほど遅れてをれば駅ごとに日本の車掌は深く深く詫ぶ

ほの暗き腋は植物にもありて葉腋に咲く金木犀の香

ぺらぺらの通勤定期の文字流れかすれたる頃、新品届く

につぽんを捨ててよし若き博士らよわれもいはれきいまにわがいふ

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