Archive for the '今日の一首鑑賞' category

初詣帰りの道に野の草のハーブ引き抜き妻は手に持つ      

シクラメン選りいる妻をデパートに見て年の瀬の街にまぎるる

元日すでに薄埃あるテーブルのひかりしづかにこれからを問ふ

時刻表は褪せて西日に読めざりき岬の鼻に待つ風のバス

オリオンはさやかに高しわれ二十歳みにくけれどもおもてを伏せず

死の時間近づく人に「おだいじに」とはいへぬただ礼(ゐや)にて離る

マンホールの蓋を持ち上げ残雪を捨てて世界はまた春になる

病廊を清掃しゆく機器の音遠ざかり日曜の夕ぐれが来る

角砂糖角[かど]ほろほろに悲しき日窓硝子唾[つ]もて濡らせしはいつ

おおよその若き日を知る友どちと湯葉のお煮染め茶の間に食ぶ

よろこびが引いていくとき湖面から静かに現れる人力車

太陽を迎える準備はできている菜の花畑に仁王立ちする

眠る間にすべてを忘れますように 百合の香りがしている廊下

当事者が切り出しくれば長くなる無断複製をされにし経緯

あかときに目覚めし人は隣りゐる老女の貌を見るにあらずや

雑魚寝する頭跨ぎてだれかまた棺の傍に泣きにゆくらし

欄干[らんかん]に雪のふちどりこの夜はなんという劇の幕間[まくあい]であろう

食卓にこぼれて光る塩の粒、宇宙の闇をわれは想へり

鈍いひかりの空から音もなく落ちる……トナカイ その後 橇 マスタング

大鍋に湯がゆっくりと沸きたつを見つめておれば一世は過ぎん

はしがきもあとがきも無き一冊を統[す]べて表紙の文字の銀箔

不自由な位置に貼りつきコンセント叱られつづける二十数年

石の肌は(かつて内部であつたこと)舗道に冬のひかりをかへす

泉町大工町過ぎ坂道を下りぬ向かい風を浴びつつ

脱ぎてある君のYシャツ腕まくりしたままなれば解きてやりぬ

待ちあはせしたる子が裸子植物に見えてくるなりグリーンの服

婚解きしこと語り終え白ワインボトル二本を友と空けたり

誰も弾かぬピアノとチェンバロある家で除湿機の水をせつせと捨てる

そして冬、虚[そら]もそぞろにしぐれ降りなにもなき日を鎮もる家群

わが庭の薔薇垣に朝のひかり差すまさしく日食まへの太陽

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