2017年07月のアーカイブ

きっと血のように栞を垂らしてるあなたに貸したままのあの本

人間は世のひとかたに去りしごとひそけき昼を爬虫類出づ

夏なのに咲かない向日葵 泣いていた記憶ばかりが鮮明、ずっと

股関節こくつと鳴りぬストレッチは自分のからだを捜すものなり

太陽の沈まぬ国のひまはりは首落つるまで陽を追ふといふ

硝子戸の外にて雨はふるとみえず梅の葉が昏くぽつりぽつり動く

陽炎に裏表ある確信を持ちてしずかに板の間に伏す

卓上に綿棒いっぽん横たわり冬の陽射しに膨れはじめる

炎昼の往還に人絶えぬればあらはるる平沼銃砲火薬店

麻痺の子の逝きて時経し向ひ家に人の笑ひのきこゆと妻は

幼年時代の記憶をたどれば野の果てで幾度も同じ葬列に会う

桃の木はいのりの如く葉を垂れて輝く庭にみゆる折ふし

七月十七日かなかな鳴けり幾度か短く鳴けり夜のベランダに

連結して貨車降りるときこはばりし指のはずれずふる雨の中

モナリザは笑みてをらずと夢に来し誰かは言へり雨月ふかき夜

さそはれて窓より首を出すときにみじかすぎたり人間の首

「蠅はみんな同じ夢を見る」といふ静けき真昼 ひとを待ちをり

給油所のうえの虚空はさざなみの沼につづけり 横ながの沼

橋なかば傘めぐらせば川下に同じ橋あり人と馬行く

さかいめのなき時を生きゆうらりと瞳うるわし川底の魚

さびしさに死ぬことなくて春の夜のぶらんこを漕ぐおとなの軀

参道の夜店の面に目がふたつ開いたままに暮れどきに入る

いつか死ぬ点で気が合う二人なりバームクウヘン持って山へ行く

末なるがめぐしきものと群肝の心にしみぬしが幼聲

卓のグラスに映れるわれら人生のこの一齣も劇的ならず

針の目の隙間もおかずと押し浸す水の力を写したまへり

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