平岡直子のアーカイブ

戦争に見えて思わずうろたえる「食事とコーヒー」の字体が変で

無口なる姉妹を産んで編み物も刺繍も蜘蛛のようにする母

終電のゆきたるのちの柿生駅灯りて駅の風格保つ

切り傷の乾ききらずに夏来たり交差点の百合はあたらし

どうしようもないことだけでできているアネモネだから夜を壊そう

堤防に続く景色に追いつかれそうでしずかに手袋はずす

シャンプーのきみのあたまの泡のまにあたしの家があったがながした

ゆるやかな心変わりで幽霊に会えなくなった八月のこれから

空白の原稿用紙ひとマスは注射のあとにはりつけたまま

八月の蟻がどんなに強そうに見えるとしてもそれは光だ

ホームとの隙間が大きな駅に住むあなたの家を訪ねていった

兜虫の背中おさへたる虫ピンを写して明るき昭和の図鑑

坂道を上った先の消防の間口の広い建物に塔

CASAからわたしの部屋のベランダに干した真っ赤な布団が見える

リバーシブル! 正義の味方のやうな声発してきみは服うらがへす

月面に脚(あし)が降り立つそのときもわれらは愛し愛されたきを

前足に遅れまじとてうしろ足けんめいうごく横長の犬

ガラス一枚の外は奈落の深さにて五十階に食む鴨の胸肉

わが影に燕入りたり夕光(ゆうかげ)に折れ曲がるわが胸のあたりに

あらくさにしんしん死んでゆける夏黄のフリスビーと毛深き地蜂

カバに手を掛けてるヒトが穴だった顔はめパネルやればよかった

階段の底までくだり昼くらきコーヒー店に来てまづ眠る

足裏より夏来て床に滴りしすいかの匂いまばゆい午後だ

峠から無限にひろがる星空に吸えないタバコをすわされそうで

コーヒーの湯気を狼煙に星びとの西荻窪は荻窪の西

雪を踏むローファーの脚うしろから見ていて自分が椿と気づく

夕照はしづかに展くこの谷のPARCO三基を墓碑となすまで

セイムタイム セイムチャンネル セイムライフ 悪夢の続きだったとしても

pianist 左手にキウイのいろと右手にストロベリーの色と

差し向うさびしさしりて一脚の椅子とむきあう相聞歌篇

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